後藤敏夫のグローバル教育情報

ニュースレター

クリエィティブシンキング(Creative Thinking )とクリティカルシンキング(Critical Thinking) を考える(2)

2024.07.13

先回、クリエィティブシンキングとクリティカルシンキングの2つのコンセプトについて説明をしました。その中で、経済協力開発機構(以下、OECD)にて行われた『Fostering Students’ Creativity and Critical Thinking 』(以下、プロジェクト)をご紹介しました。

今回は、その両方のコンセプトの中での習熟度と評価の観点をまとめた2つのルーブリックスについて説明します。

2つのルーブリックス

プロジェクトでは、最初に、クリエィティビティとクリティカルシンキングの教務資料として、大きく分けて2つのルーブリックス*1 を、各国のチームのフィードバックを取り入れながら2年間かけて作成しました。試行錯誤を繰り返しながらの作成となりました。脚注1

このルーブリックスを作成するにあたり、重要な前提は各カリキュラムの大筋の変更はせず、教え方や評価の仕方を変えることにより、クリエィティビティやクリティカルシンキングの訓練を目指すことでした。言い換えると、既存の学習内容を用いて、学習のプロセスを変える方法にてルーブリックスの作成を行いました。こうして、プロジェクトは2つのルーブリックス『概念ルーブリックス』と『評価ルーブリックス』を完成させました。

1つ目の『概念ルーブリックス』の目的は、講師と生徒のクリエィティビティとクリティカルシンキングの理解を共通にすることでした。一方、2つ目の『評価ルーブリックス』の目的は、生徒の学習過程と成果物のクリエィティビティとクリティカルシンキングの評価をすることでした。

完成後、参加者はこの2つのルーブリックスを用いて、新たなコース、レッスンプランとアクティビティの作成、或いは、既存のレッスンプランの改善を試みました。

*1ルーブリックス
概念やコンセプトを文章にしたり、簡略化したりしているマトリックスの表で学習過程や成果物の達成度の評価に使用します。

『概念ルーブリックス』

OECDの『概念ルーブリックス』の中ではクリエィティビティとクリティカルシンキングに共通して必要な4つの副次的スキル、Inquiring (探求する)、Imagining(想像する)、Doing (実行する)と、Reflecting (見直す)に分けられました。この『概念ルーブリックス』の中では、包括版と授業フレンドリー(簡易)版の2つが作られました。プロジェクト中での先生たちのフィードバックでは、包括的で詳細を含むものが使い易い、反対に、簡易的なダイジェストがいいとする意見があり、先生たちの好みが分かれたため、この2つが作られました。

OECDの『概念ルーブリックス』(簡易版)の表をここに翻訳して挙げます。

 

『評価ルーブリックス』

2つ目のOECDの『評価ルーブリックス』は生徒の成果物や、提出物、学習の過程の評価をする際に使用するものです。ここでは4段階の習熟度が設定されています。

OECDの『評価ルーブリックス』(抜粋)については、生徒の成果物に関する表のみを翻訳して、ここでは挙げます。

取り扱い方の自由さ

この研究結果で当職が興味深く感じたのは、各国のチームは各々の社会と教育背景に合わせて、プロジェクトで完成させたルーブリックス(以下、OECDルーブリックス)の使い方に自由度を持たせたことです。

その結果、約7割の先生がOECDルーブリックスを6カ月の期間に1回以上使用し、他の3割は全く使わなかったと報告されています。その上、OECDルーブリックスの扱い方が異なっているチームもあり、最終的にOECDルーブリックスの取り扱い方として、以下の3通りとして取りまとめました。

1つ目は、OECDルーブリックスを全く使用していないで、関連のある違うルーブリックスを使用しています。
例えば、ウェールズとボストンの学校ではOECDルーブリックスより視覚芸術の認知習慣に焦点を当てている、「Studio Thinking  ルーブリックス」*2 を使用しました。

2つ目は、OECDルーブリックスを他のルーブリックスと併用して使用しました。
例えば、ハンガリーのチームは、「Five Creative Habits of Mind ルーブリックス」*3 とOECDルーブリックスを目的別に使用しました。OECDルーブリックスは教育アクティビティの中で、クリエィティビティやクリティカルシンキングを育むのに足りない点を確認する目的に利用して、クラスルームの結束力・相互関係を指すクラスルームダイナミクスの観測ツールとしては、「Five Creative Habits of Mind ルーブリックス」を使用しました。

3つ目は、OECDルーブリックスをベースに、新たなルーブリックスを作成しています。
ブラジルでは教員の専門的学習の一環として、学生の自己評価ルーブリックスをOECDルーブリックスのストラクチャーに準拠して改訂しました。アメリカのサンディエゴ近郊地域ではOECDの『概念ルーブリックス』を使って、教員の採点ルーブリックスと生徒用の自己評価ルーブリックスを作成しました。

 

*2 「Studio Thinking ルーブリックス」
ハーバード大学の教育学部の研究チームによって考案された、Studio Thinking Framework のルーブリックスで様々な学校のレベル、教科での評価基準として適用されている。芸術家が用いる8つの要素・スキルによって構成されている。Craft Development, Engagement and Persisting, Envision, Express, Observe, Reflect, Stretch and Discover, and Understand the Communityが含まれる。脚注2

*3 「Five Creative Habits of Mind ルーブリックス」
イギリスのウィンチェスター大学の3人の研究者(Guy Claxton, Bill Lucas and Ellen Spencer)が2013年に発表した「Five Creative Habits of Mind モデル」をもとに制作されたルーブルックス 。Inquisitive, Imaginative, Persistent, Disciplined とCollaborative が含まれている。脚注3

 

おわりに

このようにOECDルーブリックスはそれぞれの事情や必要性に応じて利用、改訂、参照されています。

クリエィティビティとクリティカルシンキングは、情報が増え、社会が複雑化していく中で生き抜くには不可欠なスキルであり、能力です。日本でもOECDルーブリックスや他国で作成したルーブリックスを利用して、カリキュラムの評価の仕方や教授の仕方を変えていくことが教育の質の向上に繋がると言えます。

もちろん、地域や学校の方針や目指すゴールによってルーブリックスの使用目的も内容も異なりますので、生きた教育効果を第一義としながら自由に扱っていくことを期待します。

 

後藤 敏夫
オービットアカデミックセンター 代表
ワールドクリエイティブエデュケーション CEO

 

脚注:
1 Vincent-Lancrin S et al. (2019) Fostering Students’ Creativity and Critical Thinking: What it Means in School, Educational Research and Innovation, OECD Publishing, Paris.

2 SEGi College (16 Oct 2022) What is “Studio Thinking Framework” & how does it work in the classroom?, SEGi College, accessed on 26 May 2024.

3 Cyngor Celfyddydau Cymru (n.d.)  A guide for creative individuals on the 5 creative habits of mind, Arts Council of Wales, accessed on 26 May 2024. 

参照元:
・PISA 2022 Assessment and Analytical Framework, OECD Publishing, Paris
・Vincent-Lancrin S et al. (2019) Fostering Students’ Creativity and Critical Thinking: What it Means in School, Educational Research and Innovation, OECD Publishing, Paris 

翻訳:World Creative Education Private Limited