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クリエィティブシンキング(Creative Thinking )とクリティカルシンキング(Critical Thinking) を考える

2024.05.13

先回、これからの時代を生き抜くために必要なスキルとして、経済協力開発機構(以下、OECD)が発表しているPISA2022 Assessment and Analytical Framework にある、デジタルICTやデジタルスキルについて取り上げました。今回は、同じFrameworkにあるクリエィティブシンキング(Creative Thinking )についての実験的考察を取り上げますが、ここでは問題点をより明確にするために、クリエイティブシンキングとクリティカルシンキング(Critical Thinking)の両方にフォーカスします。

機械では代替えのきかないスキル

社会の構造の複雑さと技術の発達が加速していき、未来の予想が難しくなっていく中で、今までにない仕事が増えています。この時代を生きていくこれからの若者にとって、既存の枠にとらわれないクリエィティブシンキングと、雑多な情報の中から正確で有益な情報だけを取り込むスキルとなるクリティカルシンキングを身につける重要性は増しています。

最近の経済協力開発機構(以下、OECD)の推定によると、OECD加盟国の14%の仕事が完全に自動化する可能性があり、他の32%の仕事も大幅に変化する可能性が高いとのことです。

このように様々な職業が自動化していく中で、機械やAIでは代替えできない、人間のみが可能なスキルがクリティカルシンキングやクリエィティブシンキングとされています。*1 

クリエィティブシンキング とクリティカルシンキング

クリエィティブシンキングとは、新しい考えを生み出したり、新奇性のある作品や物を創造する力や思考力を指したりします。*1 また、同時に新しい環境などに適応していくこともまた、クリエイティブシンキングの領域です。

一方で、クリティカルシンキングは、論理的、或いは、合理的思考をすることです。例えば、論議の中身を整理して、その内容の真偽を判断したり、矛盾点を見出したりする思考力です。数学でいうと、数学の図形の証明問題を解く分析力、或いは、計算で「解なし」に導く論理性です。またこうした、分析能力ばかりでなく、意見や批判に対応して、相手の論理を分析しながら、議論しながら解決の道筋や決着点を見出したり、多角的な視点にて思考をまとめたりすることなども含まれます。つまりクリティカルシンキングを行うためには、公平なバランス感覚、真実への探求心、柔軟な思考、客観的な判断、そして、歴史や文化、多様性に対して偏見を避けることが求められます。また、白黒はっきりとした思考も必要です。 *1 まさに、あいまいで主観的な推論をもとめる「忖度」は排除されます。

学習現場では、クリエィティブシンキングは、想像したり、また、アイディアをまとめるためのブレストを行ったり、アイデアの代替え案などを発案することに重点を置くのに対し、クリティカルシンキングは分析して解決点を見出すことが中心になります。つまり、クリエィティブシンキングは豊かな想像力、発想力が求められるのに対し、クリティカルシンキングは探求力や分析力が求められると言えます。*1

この時代の学習現場の中では、アクティブラーニングの中にこのクリエィティブシンキングとクリティカルシンキングを取り入れていくことが必要かつ必然となっていきます。そして、ここではインタラクティブな(双方向)の対話型授業形式が求められます。
まさに、当職の主催する教育現場にて長年実践している授業スタイルです。

OECDの取り組み

2019年にOECD のCentre For Educational Research and Innovation (CERI)が『Fostering and Assessing Creativity and Critical Thinking in Education』というプロジェクトの研究内容を発表しました。これは、クリエィティブシンキングとクリティカルシンキングをいかに小学校と中学校の教育に取り組むかの5年間の研究内容です。*1

このプロジェクトでは、11か国(ブラジル、フランス、ハンガリー、インド、オランダ、ロシア、スロバキア共和国、スペイン、タイ、英国(ウェールズ)とアメリカ)の学校にて、800人程度の小、中学校の先生の参加によって、2つのグループによる「研究」(quasi-experimental research)が行われました。生徒の対象年齢は10歳ぐらい(日本の小学4年生相当)と14歳ぐらい(日本の中学2年生相当)。一つ目はクリエィティビティとクリティカルシンキングの教育に挑戦するグループ(Intervention Group)と、もう一つは、クリティカルシンキングとクリエィティブシンキング教育を取り入れない従来型のグループ(Control Group:比較の基本となるデフォルトのグループ)です。

そして、この「研究」の前と終了後に校長先生や先生方と生徒にアンケートを実施して、加えて、生徒には教えた科目分野のテストとクリエィティビティのテストを実施しました。*1

このプロジェクトでは最初の2年間に、指導のための資料として、2種類のルーブリックス(クリティカルシンキングとクリエィティビティの概念と、評価観点と評価基準をまとめた表)を、各国のチームが試験的に授業に導入して、フィードバックを取り入れながら作成しています。この中で最も重要な前提は、既存のカリキュラムの大枠や大筋の変更はせず、教え方や評価の仕方を変えることによって、クリエィティビティやクリティカルシンキングの教育を実現できるとしたことです。

この1つ目のルーブリックスは講師と生徒のクリエィティブシンキングとクリティカルシンキングについての理解を共通にする『概念ルーブリックス』と2つ目は生徒の学習プロセスと成果を測定するクリエィティビティとクリティカルシンキングの評価ができる『評価ルーブリックス』です。このプロジェクトでは、参加者した先生たちがこの2種類のルーブリックスを使い、新たなコースやアクティビティを含むレッスンプランの作成、或いは既存のレッスンプランの改良、修正を行うことを求められました。 *1(続く)

 

後藤 敏夫
オービットアカデミックセンター 代表
ワールドクリエイティブエデュケーション CEO

脚注
*1 Vincent-Lancrin S et al. (2019) Fostering Students’ Creativity and Critical Thinking: What it Means in School, Educational Research and Innovation, OECD Publishing, Paris

参照元:
・PISA 2022 Assessment and Analytical Framework, OECD Publishing, Paris

翻訳:World Creative Education Private Limited