後藤敏夫のグローバル教育情報

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The Times Higher Education 東大、京大Ranking Downの衝撃 ③日本の地位回復のためには教育制度の改革が必須

2016.07.30

 アジア各国の大学はメガコンペティションに突入しました。シンガポールの2大学はじめ各国のトップ大学はG型大学シフトを切り、研究・教育の分野で存在感を増しています。 しかし、どのランキングを見ても、日本の大学は苦戦しています。※参照 なぜ、日本の大学は研究レベルが低くないのにランクダウンするのでしょうか? ※参照 : The Times Higher Education アジア主要大学ランキング推移<国別>(2013~2016) table

L型大学からG型大学へのテイクオフが遅れている。

 一言でいえば、東大、京大も含め、いまだにL型大学からG型大学にテイクオフが遅れているということです。テイクオフしない大学(様々な面でグローバル対応が遅れている大学)は、研究資金、優秀な教授陣・研究者、学生のいずれも集まりません。こうした大学は必然的にランクダウンすることになります。一旦ランクダウンすると負のスパイラルに入り、V字回復は容易ではありません。先回述べた、アジアの大学が正のスパイラルに入っているのと逆の道をたどってしまいます。  今回のThe Time’s Higher Education のアジア大学ランキング 2016でも国際化度(グローバル度)がますます重要な評価ポイントになりつつあります。留学生比率、外国籍教員比率、国際共同リサーチの3ポイントが国際化度という直接的な項目ですが、全体評価の中で計7.5%を占めています。これにとどまらず、G型大学へテイクオフした大学は、先端研究・発明によるグローバル企業からのプラスの影響(基礎研究や先端技術開発に対する資金提供等)、論文引用増加の国際的影響、学習環境に関する国際的評価、卒業後のグローバルな人的ネットワーク構築力、等々、その他の様々な項目に於いて、直接、間接のプラス評価を獲得するのは当然の結果と言えます。  では、日本の大学が国際化度(グローバル度)の指標-留学生比率、外国籍教員比率が決定的に低く、ランキングが低迷している原因を掘り下げてみましょう。 本質的な原因は次に挙げる3点です。

1. 日本の大学では共通語-英語で行われる専門科目の講義・演習が極めて少ない

 英語で行なわれる講義・演習が多く、英語の講義の受講だけでも学位(Degree)が取得できることが、外国籍の学生が入学できる最低限の条件です。また、英語で行われる授業・演習が少なければ、優秀な外国籍の教授陣の雇用は極めて難しくなります。 同時に、専門科目を英語で講義を行える日本人教授・講師の数も大幅に足りません。

2. 英語で専門科目を履修・修了できる日本人学生が少ない

 実際に大学で英語の講義を受講・参加できる日本人学生がかなり少ないことも、英語による講義や演習の開講を困難にしています。  残念ながら現在の日本の中等教育では、最優秀な学生でも、レベルの高い高等教育の講義を英語で受けるに十分なアカデミック英語の4技能(Reading, Writing, Speaking, Listening)が十分に身に付きません。  この点の打開策としては、中等教育において、G型大学進学志望者対象の英語教育のゴールを「大学で英語による専門科目や演習を受講可能な英語力をつけること」に抜本的に切り替え、本格的なDLE(二重言語教育)を早期に実現することが必須です。その前段階である初等教育でも【英語を学ぶ】から【英語で学ぶ】の基礎段階のDLEの導入が必要です。 これを実現させるには、少なくとも英語に関しては従来型入試を廃止し、G型大学で一般的なアドミッション型の選考に変更することが必須です。  アドミッションの具体案としては、 ① 大学出願までに複数回受験できるTOEFLやIELTS等の4技能テストで一定のスコア以上※獲得を出願・入学・受講条件にすること。 ② 学業は優秀だが、英語力が不足する学生には、条件付き合格(Conditional Offer) を出し、基準のスコアをクリアした時点で 英語による科目の受講を許可する。 ※一定のスコア以上:世界ランキング上位を目指す大学は、海外の大学入学基準と同じようにTOEFL iBT 80以上。できれば90以上が望ましい。IELTSの場合は総合最低6.0以上。できれば6.5以上。

3.日本の高等教育には大学単位の互換性と柔軟性がない

 日本には戦前、旧制高校・大学予科という今でいうリベラルアーツを学ぶ大学進学準備課程がありました。しかし、1947年『教育の民主化』を掲げたGHQにより、複線型教育制度(ヨーロッパ型)から6・3・3・4年制の単線型教育制度(アメリカ型)への教育制度改革の中で廃止されました。日本の旧制高校や大学予科で履修するリベラルアーツは一般教養という形で大学1、2年次に『教養課程』として繰り入れられました。  ところが、グル―バル社会での高等教育の主流は、アメリカ型の教育制度ではなく、戦前の教育制度と同様のヨーロッパ型です。つまり大学進学準備課程を経て、大学に入学、専門課程を履修するというものです。そのため、日本の中等教育から高等教育への接続は、ヨーロッパ型と互換性がなくなってしまいました。 一方、日本が戦後モデルにしたはずのアメリカでは、ヨーロッパ型の大学制度と互換性のあるシステムが併存しています。日本の戦後の教育制度では、グローバル教育に最重要である「制度や単位の互換性」について省略してしまった感があります。  具体的にいうと、アメリカの公教育では中等教育に大学の『教養課程』レベルのAdvanced Placement(AP)を編成し、私立校では、国際的認知度が高く、更にハイレベルな大学進学準備課程の国際バカロレア(IBDP)を積極的に導入、編成しています。つまり、国家カリキュラムの履修内容を標準レベルのカリキュラムとして位置付けた上で、高等教育と同等の発展的(Advanced)カリキュラムとして認知しています。その上で、標準カリキュラムで優秀な成績を修めている生徒や今後伸びが期待できる生徒を選抜して、APやIBの受講が許可される複線型の教育制度にしています。そして、このAPやIBDPの履修内容こそが、『大学進学準備課程』としての役割を果たし、大学4年制のアメリカであってさえも、大学1年次の科目や一部2年次の教養科目を「履修済み」として免除され、3年や3年半での早期卒業を可能としています。つまり、高校卒業と同時に、アメリカ型の4年制の大学の1年次や2年次相当の『教養課程』の多くの単位が認定されるのです。そうして、優秀な学生は、いわば、『大学に編入する』のです。『飛び級』の考え方と同じです。  そのため、アメリカの高校生でも卒業までにIBDP(大学進学準備課程)を修了、卒業後すぐに、ヨーロッパ型の大学に入学、1年次からの専門課程を履修できます。因みに、ヨーロッパ型の大学では学科によっても違いますが、※1標準的なコースで3年、専門性の高いコースは4年~5年の専門課程が用意されて、最短で3年で卒業、学位が認められます。学生によっては4年でダブルディグリー(2つの学位)を取得できます。  つまり、「民主主義の名のもとに平等の国である」アメリカの公立高校であっても、戦略的に優秀者を優遇した、エリートのための中等教育を用意しています。 そして、このことが、アメリカ型とヨーロッパ型の大学制度との互換を可能として、グローバル教育の第一課題である多国籍な大学環境を生み出しているのです。 ※1 ヨーロッパ型の大学制度は専門課程のみ用意されているため、文系理系の通常のコースは3年間で学位が取得できる。専門性が高いコースでは4年以上、生命科学、メディカル系の専門的な資格をめざすコースはインターンシップなども含めて5年以上となるコースも多い。

求められる大学改革:日本語DP(大学進学準備課程)によって取得した単位を大学の学位取得に必要な単位と互換できる制度の導入

 2016年に『大学進学準備課程』の位置づけにて、日本語DPが一部の高校で導入されました。この内容については、別稿で詳しく述べることにしますが、『大学進学準備課程』の導入と同時に重要な課題は、日本語DP(大学進学準備課程)によって取得した単位を大学の学位取得に必要な単位と互換できる制度、つまり、大学に編入できる制度を早期に確立、施行することです。この制度を整備して初めて、日本語DPの価値が世界の価値と同等のものとなると言えます。そして、これこそが、グローバル社会で高いランキングをマークする大学と互角に評価されるために必要不可欠な制度です。  残念ながら日本の高等教育では、未だ外国の大学進学準備課程や大学で取得済みの単位を互換して扱う協定が一般的でありません。海外で大学進学準備課程にてすでに『教養課程』と同等の履修単位を持っている学生に対しても再度『教養課程』の履修を求められます。 つまり、日本の大学の学部では外国の学生の事情にあったアドミッション制度がないのです。こうして、アジアに興味を持つ優秀な学生が、シンガポールを始めとして、香港、中国に留学してしまい、日本の大学の国際性の評価が下がる結果となっています。