後藤敏夫のグローバル教育情報

ニュースレター

2015年TOEFL 日本Speakingセクション 世界最下位の衝撃 ①

2016.06.22

総合ランキングで日本は依然アジア最下位グループに低迷

 世界的に認知度の高い英語四技能テストの一つ、TOEFLの2015年の結果が4月下旬に出ました。日本のスコアは引き続き厳しい結果でした。(特にSpeaking Sectionの点数は何と世界最下位!) 近年日本は国をあげて英語教育に力を入れる方向に舵を切り始めましたが、成果が出るにはもうしばらく時間がかかりそうです。 一方、アジアの諸国では既に英語教育に力を入れ、顕著な実績が上がり始めています。TOEFL iBT ※1が開始された2005年から2015年まで8年度を(表1)にまとめてみましたのでご参照ください。  ※1 TOEFL iBT ・・・IELTSとともに、世界中で広く知られている「聞く、読む、話す、書く」の4技能テスト。2005年からインターネットベースの現在の形式iBTで行われています。 ?『アジア主要国のTOEFLスコア平均の推移と日本との比較(2015年)(表1) [caption id="attachment_1514" align="aligncenter" width="594"]TOEFLスコア平均の推移[/caption]

アジア各国のスコアは続伸傾向

 アジアの主要国は概ね3グループに分けられます。 第一グループ:  イギリスかアメリカの元植民地で、長い期間すでに英語を(準)公用語としている国々。教育制度もイギリス式、アメリカ式を採用しています。90台のスコアは当然でしょう。国を挙げてDLE ※2(Dual Lingual Education 二重教育言語)を推進しています。 ※2 DLE・・・Dual Lingual Education 二重言語教育 第二グループ:  公用語としてそれぞれの民族言語を持ちながら、グローバル化の進展に伴い、急速に英語教育に力を入れている国々(地域)。すでに先進国(地域)へテイクオフがほぼ成功した韓国、香港等、海外からの投資を呼び込み、発展途上国・中進国から先進国へ急速にテイクオフを図ろうとしている国々です。このグループは、120点満点中70台後半から80台半ばの平均スコアを出しています。  この背景には、昨年末に発足したAEC(アセアン共同体)の存在があります。AECにより、約6億2千万人の巨大経済圏が発足、高等教育とビジネスの共通語を英語に転換する動きが加速しています。  昨年11月、インドネシアは国立大学から高等教育を英語、インドネシア語(Bahasa Indonesia)によるDLEを推進することを発表し、共通語英語を軸にしたグローバル人材の積極的養成を開始、大きな話題を呼びました。 第三グループ:  国家が発展途上で、教育予算が十分にかけられず、スコアが低迷している国々。このグループは70台代前半未満のスコアになっています。モンゴルは最近英語教育に力を入れ始め、第二グループに追いつき始めました。  表1からわかるように、日本のスコアの低さは、未だ第三グループのレベルに留まっています。

海外のビジネスシーンでも実感

 この表のデータは、長年シンガポールに居住している筆者の実感通りです。第一グループのみならず第二グループ出身の大学卒はビジネスやアカデミックな世界で、英語でコミュニケーションをとることに問題はありません。(事実これら第二グループの平均スコアは80点前後)  反対に英語でやり取りすることが、大学卒でさえいまだに特殊技能になっている現状である日本の実情をみて、産業界や経済産業省、文部科学省が大きな危機感、焦燥感をもつのは当然です。1990年代初頭に冷戦構造が崩壊、その後インターネットやグローバリゼーションの大波がやってきたときに、戦略的に策を講じてこなかった教育行政の責任は大きいと言えます。加えて、大学受験という予備校・塾業界の権益にのり、入試教科としての英語教育【入試教科英語学ぶ】から教授言語としての英語教育【英語学ぶ】へ転換を怠ってきた教育業界の責任も同様です。世界の潮流に対して少なくとも15年は対応が遅れてしまいました。TOEFLのスコアからは、この遅滞は既に致命的になりつつあります。対応は待ったなしです。 (②へ続く)