QS世界大学ランキング2015/16 解説記事:ランキングに異変が起こっている②
2015.09.25
QSグローバル世界大学総合ランキング2015/16 解説記事:ランキングに異変が起こっている②
フラッグシップ大学の後退と技術系大学の躍進
10年ほど前までは、アジア諸国では伝統がありプレステージの高い大学<日本-東京大学、シンガポール―シンガポール国立大学(NUS)、韓国-ソウル国立大学、香港―香港大学、中国―北京大学 等のフラッグシップともいえる大学がその国のアカデミックな世界を牽引してきました。
ところが、先回ご紹介した東京大学のランク後退の要因としてあげられる専門教育の強い大学が優位の傾向がアジアの各国でもでてきたため今回のランキングの明暗は顕著なものとなっています。
ここでは国別に今回の傾向を見てみましょう。
1.日本
① 京都大学:38位←36位
② 東京大学:39位←31位
③ 東京工業大学:56位←68位
日本の頂点の2大学である東京大学と京都大学はいずれも順位を落としています。一方で、気を吐いているは東京工業大学です。東京工業大学は自然科学・工学系のレベル極めて高く、先端研究を行う専門大学として海外でも高い評価を得ています。今後の東京工業大学の課題はグローバル型大学としての基本条件であるグローバルな教育・研究環境の整備です。後述の香港科技大学(HKUST)や韓国科学技術院(KAIST)がこの大学の競合になると思われます。
また、他の多くの大学もリベラルアーツ系の教養教育主体ではなくレベルの高い専門教育を重視する教育が今後の潮流です。この方向に大きく転換、授業の2言語(DLE:Dual Lingual Education)化を進め、研究・教育のグローバル化を進展させて競合力のある大学に生まれ変わってもらいたいと思います。
世界的に知名度の高いQSのようなランキングで順位を落とすと、優秀な留学生募集、研究者・教授の募集にすぐにマイナスの影響がでますので、日本の大学全体にとって対岸の火事とは言えません。もちろん、日本国内の学生募集には殆ど影響ありませんが、国際競争の激化の中では影響は深刻といえます。
そのためには、教養課程2年間を経て、専門課程2年で卒業、大学3年生から就職活動といった他の国に類をみない高等教育の現場を土台から大きく変換、グローバルな尺度に通用する構造改革が必要です。
日本の大学が世界に冠する高等教育の場となるための必須条件といっても過言でもない高等教育制度の抜本的見直しを早期に達成することを切に願います。
2.シンガポール
① シンガポール国立大(NUS):12位←22位
② ナンヤン工科大学(NTU):13位←39位
フラッグシップNUSはともかくNTUの躍進は目を瞠(みは)ります。
26の大学をごぼう抜きして一気に躍進しました。この国がランキング10位台のタイプの異なる大学を二つ持っているということは、国家戦略であるアジアにおける研究と教育ハブとしての地保を固めたということを意味します。
3.韓国
① ソウル国立大学:36位←31位
② 韓国科学技術院(KAIST):43位←51位
韓国でも理工系の専門大学が大きく上がっています。韓国科学技術院は1962年創立。英語での授業が多く、海外出身の学生が多く在籍しています。大学院生の比率が6割を超えるリサーチが強い韓国屈指の理工系専門大学です。韓国の急成長を支え、これからも支える大学といえます。
4.香港(特別行政区)
① 香港科技大学(HKUST):28位←40位
② 香港大学:30位←28位
香港大学は香港のみならず中国全体の中でもグローバルな大学を牽引してきました。ここでも、ランキングの逆転が起き、香港科技大学が名門香港大学を抜きました。
香港科技大学は1991年創立の極めて若い大学ですが、工学系、IT系、数理科学系の分野で抜群の強みを発揮しています。
5.中国
① 精華大学(TSINGHUA UNIVERSITY):25位←47位
② 北京大学 (PEKING UNIVERSITY):41位←57位
③ 上海交通大学(SHANGHAI JIAO TONG UNIVERSITY):70位←104位
中国の経済発展を支え勢いのある北京の名門2大学。精華大学が、昨年北京大学を抜き、今年香港の2大学(香港大学、香港科技大学)を抜き去り中国トップに立ちました。
精華大学は日本の東京大学、京都大学とよく比較されますが、東京大学と京都大学はトップレベルの大規模総合大学ですが、精華大学はどちらかというと工学系、生命科学系が極めて強い大学です。特に、基礎研究、応用研究ではかなり革新的研究に強いという傾向があります。
北京大学は理学系、社会科学系が伝統的に強いですが、特に、論文引用の重視がなされると、有利に働くのは精華大学です。
上海交通大学は、もう一つの学術研究の中心上海の注目の大学。毎年順位を上げています。中国で最も伝統のある総合大学の一つ、自然科学系、工学系が強く、海外からの研究者・学生が多いグローバル志向の大学です。中国共産党中央委員会から選ばれた16の重点大学に入っています。この大学は世界大学学術ランキングを発表していることでも知られています。
中国の大学は基本的には中国語で授業が行われますが、トップレベルの大学院の論文は英語への転換が既になされています。科学誌ネイチャーへの機関別掲載数をみても数を増やしているため、今後ますます実力をつけながら、ランキングがあがることが予想されます。
(続く)
>QS世界大学ランキング2015/16はこちら。ワールドクリエィティブエデュケーション CEO
オービットアカデミックセンター 代表 後藤敏夫