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日本の高等教育の新しい試み ~ 有力国立大学の改革

2023.05.20

日本の高等教育の新しい試み ~ 有力国立大学の改革

九州大学「共創学部」と一橋大学「ソーシャル・データサイエンス学部」

日本の国公立大学でも改革は進んでいます。今年の春にはじめての卒業生を輩出した「九州大学共創学部」と、この春にはじめての入学生を迎えた「一橋大学ソーシャル・データサイエンス学部・研究科」が注目されています。いずれの大学も研究分野を縦割りでなく、横断的に扱える学部が新しく設置されました。

九州大学共創学部: 文理の垣根をくずす横断的な研究を可能に

7つある旧帝国大学のうちのひとつ、九州大学は2023年QS世界ランキングで135位(国内7位)にランクされている大学です。また、その位置が「東アジアに近い」のも特徴で、福岡は文化都市として「アジアの核」のひとつとなることを目指した活動を現在続けています。

その九州大学が2018年に入学定員105名の「共創学部」を新設しました。複雑化・多様化するグローバル社会・課題おいて多様な人々との「協働」・「共創」ができる人材が求められています。100年以上の歴史を持つ総合大学である九州大学は総力を結集して、「共創」に必要な「創造的構想力」、「国際コミュニケーション力」、「課題検討力」、「協働実践力」を育み、グローバル社会で活躍できる人材の育成に取り組みます。

「人間・生命」、「人と社会」、「国家と地域」、「地球・環境」、「人文社会」や「自然科学」など様々な学問エリアの「学際的な学究」 (Interdisciplinary Study) を特徴としています。歴史ある既存学部のリソースも活用できることから、相互に効果が期待できます。また英語「で」学ぶカリキュラムの導入や留学生と協働で学ぶ学習スタイルやシンガポールを含めた海外の提携校への留学など世界を見据えた教育方針が注目されています。

既存の学問の垣根を越えて、とりわけ日本での「文理の垣根」を取り払って学究をするその姿勢は時代の要請だと言えます。また、「アカデミック英語力」の重視、とりわけ議論・発表するための英語力の強化は、そのまま学究における国際的競争力の強化に繋がることでしょう。

一橋大学ソーシャル・データサイエンス学部:社会科学の研究分野を横断的に扱う

一橋大学は文系国立大学として人気を集め、百年の歴史を経て、東京都国立市の学園都市としての地位を確立しました。2023年QS世界大学ランキングは世界で530-540位(国内17位)に位置しています。文系学部のみという条件がどうしてもQS世界大学ランキングなどの国際的な総合ランキングではさらなる上位上昇がむずかしい要因となっています。

その一橋大学がこの春、新しい学部・研究科(大学院)「ソーシャルデータサイエンス」を開設します。新設する同学部・研究科は、一橋大学で伝統的に強みがある社会科学と、データサイエンスを融合させることにより、経済学、経営学、法学、政治学、社会学などの社会科学のデジタル情報化、すなわち、デジタル・トランスフォーメーションに携わり、グローバル社会の課題解決に貢献できる人材の輩出を目的としています。ビジネス領域、社会課題領域、データサイエンスの3領域を学び、さらに英語教育においても、コミュニケーションスキルの向上を目指したカリキュラムをその中心に据えています。

一橋大学はとりわけ大学院においてアジア諸国からの留学生を多く迎え、国際化を図っています。留学生の誘致に加え、学部・研究科の新設が「伝統的な文系大学」のイメージの脱皮とさらなる発展の後押しとなりそうです。

 

九州大学共創学部 https://kyoso.kyushu-u.ac.jp
一橋大学ソーシャル・データサイエンス学部 https://www.sds.hit-u.ac.jp
QS世界大学ランキング https://www.topuniversities.com/university-rankings/world-university-rankings/2023?qs_qp=topnav

オービットアカデミックセンター 代表 後藤敏夫