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QS世界大学専攻分野別ランキング2016 解説記事:政治学・国際関係学コース編

2016.04.12

 二一世紀はグローバリゼーションの世紀といわれます。  9.11アメリカにおける同時多発テロ以降、世界の政治情勢は大きく変わりました。フランシス・フクヤマが自著『歴史の終わり』で述べたように、【東西冷戦構造が終結し、『歴史の終わり』(民主主義と自由主義が社会制度の最終形であるという考え方)という状況】が来ることはなく、エスノナショナリズム※1の高まりから多くの地域で独立・分離運動等の多くの紛争※2を多く生んでいます。  グローバリゼーションは従来以上に富を生みますが、一方で階層、地域、民族間の格差を拡大させます。富の偏在は宗教対立と絡み、過激なテロリズムと多くの難民問題の温床になっているといっても過言でないでしょう。ISによるパリ・ブリュッセルの同時多発テロの脅威が、多くの先進国における右翼政党の支持層と排外主義の拡大に大きく結びついています。  ドイツをはじめEU諸国は テロ対策のため、入国審査を復活させ、シェンゲン協定※3による【国境なき一つのヨーロッパ】を著しく後退させました。また、ギリシャの財政破綻は、経済格差による加盟国間の利害を顕著にし、共通通貨ユーロの存在意義を不安定化させ、先の見えない状況が続いています。

※1 エスノナショナリズム:同一の言語・文化・宗教・生活様式をもつエスニック(民族)集団が、自らの手で独立国家を建設しようとする考え。 ※2 独立・分離運動等の多くの紛争:1990年初頭のユーゴスラビア連邦の解体、東チモール独立、2000以降の中国の新疆ウイグル・チベット両自治区、スコットランド、カタロニア、バスク、クルド、東部ウクライナ、等の独立・分離運動を契機とする紛争。 ※3 シェンゲン協定:EC加盟国で国境を入国検査なく通行できる協定の名称。1985年当時の西ドイツ、フランス、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ6ケ国が締結。2010年代に26ケ国まで拡大したが、シリアを主とする地域からの難民問題の深刻化で後退を余儀なくされています。

 政治学・国際関係学分野が対象とするこうした問題はますます複合化しています。国際経済学、民族学、宗教学、歴史学、地政学、地域研究、外交学、公共政策研究 等の関連領域との学際的研究と各国の大学・研究機関の国際共同研究プロジェクトの必要性が高まっています。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE) 専攻分野別:3位、総合:35位

 ロンドン中心部オールドウィッチにキャンパスを構える世界TOPレベルの社会科学系の専門大学です。1885年にフェビアン協会※4によって創立されました。  LSEは経済学が最も有名ですが、国際政治学、国産関係論、公共政策学、社会学の分野でも専門大学の強みを発揮しています。成り立ちから労働党とは関係が深く、近年ではトニー・ブレア、ゴードン・ブラウン両政権のブレーンにはLSE出身者が多くUSAの民主党とハーバード大学の関係者とよく対比されます。  LSEは、アメリカのコロンビア大学、フランスのパリ政治学院、シンガポールのシンガポール国立大学の三大学とともに、グローバル・パブリック・ポリシー・ネットワーク (GPPN)を形成していて、これらの大学間では、公共政策修士 (MPA:Master of Public Affairs)※5のデュアル・ディグリー制度があります。

※4 フェビアン協会:1884年に創立された 漸進的社会主義を標榜する団体。シドニー・ウエッブ、バーナード・ショウ、バートランド・ラッセル等が中心メンバー。のちに創立される労働党の基盤団体。 ※5 公共政策修士 (MPA:Master of Public Affair)のデュアル・ディグリー制度:各大学の該当修士コースの学生は1年目にそれぞれの大学で学び、2年目は他の大学のいずれかで学び単位を取得して修了要件を満たすと2つの大学から公共政策修士などの学位が授与される。

パリ政治学院(シアンスポ) 専攻分野別:4位、総合:223位

 シアンスポは1872年に創立された、フランスが誇る社会科学系の専門大学です。7つのキャンパス(パリ、ナンシー、ディジョン、ル・アーブル、ポアチエ、マントン、ランス)を擁し、経済学、国際政治学、歴史学、社会学、法律学、ビジネス、コミュニケーション、社会・都市政策、マネジメント、ジャーナリズム等 社会科学系分野に関してはヨーロッパ大陸随一のレベルの大学です。  約50%の学生は世界150か国の外国籍の学生でこれ以上のグローバルな環境はなかなか望めません、世界各国のトップレベルの大学と連携、30以上のダブルディグリープログラムを用意しています。慶応大学経済学部がシアンスポのルアーブルキャンパスと行っている【学士レベルのダブルディグリープログラム】は注目されています。  卒業生には、故ミッテラン元大統領、シラク元大統領、サンテール元欧州委員会委員長、現オランド現オランド大統領、ジャックアタリ(経済学者・思想家)、フェルナン・フローデル(歴史学者)まで錚錚(そうそう)たる顔ぶれが並びます。

オーストラリア国立大学(ANU) 専攻分野別:8位、総合:19位

 総合19位の超実力派オーストラリア国立大(ANU)はこの分野では、南半球トップ、8位にランクイン。ANUはこの国唯一の国立大で首都キャンベラにあり、政府系の機関と関係が深いこともあり、ODAや海外リサーチ活動が極めて盛んです。アジア太平洋地域にあるという地域性からも、アジア各国、太平洋沿岸諸国、島嶼諸国(とうしょしょこく)研究が圧倒的強みです。  そのため、国際関係学、アジア・太平洋沿岸諸国・島嶼諸国を中心とした開発学、外交研究、公共政策学、国家戦略研究、平和・紛争研究、ジェンダー研究、少数民族研究 等 幅広い分野かつレベルの高いリサーチが行われています。 公共政策修士(MPA)のコースも有名で、多くの卒業生が国際機関・各国の公共セクター、第3セクターで活躍しています。56%を超える世界各国出身の研究者・教授陣がこれらの世界トップレベルの研究・教育を支えています。

ジョージタウン大学 専攻科目別:11位、総合213位

 1789年にイエズス会がUSAワシントンDC近郊ジョージタウンに創立した人文・社会分野の専門性の高い大学です。  立地を生かし、国際政治学・外交戦略研究の分野では世界トップレベル。外交政策・国際関係学の大学院であるSFS(Edmund A. Walsh School of Foreign Service)は外交政策コースを開講、世界的に極めて高い評価を受けています。  この大学の出身者には ビル・クリントン元アメリカ大統領、グロリア・アロヨ元フィリピン大統領、アブドゥッラー2世ヨルダン国王、緒方貞子元国連難民高等弁務官、等の国家元首・国際機関の幹部職員が多いことが有名です。 2008年に開設した中東カタールの首都ドーハのキャンパスはカーネギーメロン大学、コーネル大学、ノースウェスタン大学、テキサスA&M大学、バージニア・コモンウェルス大学と共同で運営されています。

ベルリン自由大学(Freie Universitaet Berlin) 専攻科目別:18位、総合:119位

 1948年ドイツが東西に分割占領統治されていた時代に西ベルリンに創立されました。  ベルリン自由大学の名称は、旧ソ連占領地域とは対照的な、自由な世界の一部としての西ベルリンの状況に由来しています。国際都市ベルリンを拠点にするだけあって、ベルリン自由大学の学風は極めてリベラルでオープンです。  この大学はエクセレンス・イニシアティ といわれる11の研究重点大学の一つでドイツの研究・教育のグローバル化の拠点となっています。理工系だけでなく、社会科学・人文分野に強みを発揮しています。  修士課程以上では100以上のコースが英語で開講されていて、外国籍の学生・研究者に人気です。英語やドイツ語・フランス語のダブルディグリーも様々な分野で整備され、キャンパスの中に複数の学習言語が飛び交う環境です。

エセックス大学 専攻分野別:30位、総合:303位

 ロンドン郊外コルチェスターに1964年に創立された総合大学。UKの大学としては50年あまりの新興大学ですが、サウスバウンド、ラウトンの3キャンパスの3学部18学科を擁する総合大学として急成長。キャンパスのグローバル度は高く、多国籍の研究者・教員と学生が知的に切磋琢磨出来る環境は魅力的です。国際政治学、社会学、経済学のコースが有名。国際政治学、とりわけ国際人権分野に関しては随一。エセックス大学出身のネットワークは世界中に広がり大きな存在感を持ちます。

ロンドン大東洋アフリカ研究学院(SOAS, The School of Oriental and African Studies)
専攻分野別:35位、総合:275位

 1916年に創立されたSOASはアジア、アフリカ、中近東の地域研究、国際政治学研究に特化した専門大学。高く法学・社会科学部、人文・芸術学部、言語・文化学部の3学部があり、それぞれのコースも専門性が高く、極めてユニークなアプローチをしています。  学生の40%以上は100ヶ国以上出身の外国籍。国際色豊かな教授陣が支えるこの分野世界最大の研究・教育機関です。SOASの図書館には約4000の言語で書かれた100万冊以上の蔵書と各種資料があります。教育環境のグローバル度は世界トップクラス。国費留学生も多く、SOAS出身の各国の外交官、政府系職員、ビジネスマンが世界中で活躍しています。

欧州大学院(European University Institute, EUI) 専攻分野別:44位、総合:専門大学院大学のためランク外

 1976年EU加盟国が、ヨーロッパ社会の展望について、文化的、科学的な発展に寄与するために設立した、国際研究のための大学院大学。キャンパスはイタリアのフィレンツェ。今非理工系で最も注目を浴びている大学院大学の一つはここです。  EUIには博士課程のコースとして ①経済学研究 ②歴史・文明学研究 ③法律学研究 ④政治学・社化学研究、の4分野があり またロベール・シューマン高等研究所では アップトゥーデイトな政治課題等を国際研究する最大の研究センターです。

政治学2

(続く)次回は地理学・地域研究【Geography & Area Studies】を取り上げます。

※「QS世界大学専攻分野別ランキング2016 解説記事:政治学・国際関係学コース編」は、世界大学評価機関「Quacquarelli Symonds(QS)」が公表している「QS World University Rankings by Subject 2016」のデータに基づいて、記事作成、編集しています。

QS世界大学総合ランキング2015/16はこちら。

ワールドクリエィティブエデュケーション CEO オービットアカデミックセンター 代表 後藤敏夫