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QS世界大学専攻分野別ランキング2016 解説記事:農学・森林学コース編

2016.03.25

 農学・森林学は様々な専門家養成のニーズが極めて高く、様々な将来性が見込まれる分野です。農学・森林学以外でも自然を対象とする分野である水産学、畜産学においても同様のことが言われています。  2016年現在、地球上の全人口は73億人を超えます。日本を含む先進国では人口は減少傾向を示していますが、一方で多くの発展途上国では人口爆発とも言える状況です。そのため、今後の人口増に対応する食料供給は喫緊の課題です。対策なくして食料事情は危機的状況を免れないでしょう。食料供給において同時に深刻化しているのが、急激な農地拡大や過放牧による森林破壊の加速、温暖化による砂漠化、塩害の拡大、また大気、水質、土壌汚染等環境劣化問題等々、問題は複線形となっています。  こうした中、『食の安全』も重要な問題の一つです。食料が国境をまたいで供給されるようになった現代では、食のトレーサビィティ※1と国境を越えた品質危機管理体制のグローバルな認識が『食の安全』確保に必要となってきました。  日進月歩進歩する基礎科学としての生物学、海洋学やゲノム研究を基盤とする遺伝子工学等の農学への応用、食料増産の切り札と言われているネリカ米※2の開発、普及。第一産業従事者減少が著しい先進国で注目されるロボット農場、企業による農場経営。自然と共生し持続可能な水産業の模索、CO2のコントロールに最も重要な森林保全研究等、注目を集めているテーマ・課題は枚挙にいとまがありません。いずれの課題も急速にグローバル化し国際的な相互協力なしでは解決不能です。  こうした背景により、農学・森林学関連の多岐にわたった分野のスペシャリスト養成が各国で急務とされ、各国の得意分野での専門性を重視した大学やアグリビジネス、生態環境評価等の複合分野の専攻コースが人気を呼んでいます。

※1 食のトレーサビィティ :食品の安全を確保するために,栽培や飼育から加工・製造・流通などの過程を明確にすること。 ※2 ネリカ米:病気・乾燥に強いアフリカ陸稲と高収量のアジア稲を交雑したアフリカ陸稲の新しい有望品種。水稲に関しても普及が開始されています。


<注目の大学> この分野でも専門性の高い大学が上位にランクインしています。

ワーへニンゲン大学 専攻分野別:1位、総合:135位

 農学・森林学のトップはオランダが誇るオランダのワーヘニンゲン大学が勝ち取りました。ワーヘニンゲン大学は1876年農業学校として創立、その後何度かの改組を経て2000年『食の安全とより良き生活スタイルと環境』をコアコンセプトに人間の営みと自然の関わりに関する総合大学として生まれ変わりました。  農学を中心に、畜産学、水産学、食品科学、栄養学、造園景観学、環境科学、生物学、上下水道学、気候学等様々な専門分野のコースが用意されています。実践的研究のレベルは極めて高く、修士課程以上の殆どのコースは英語で行われるため学生の多国籍率も高く(30%弱)、グローバル度の高さも注目されています。  オランダは、僅か2%の第一次産業人口にもかかわらず世界第2位の食糧輸出国として知られています。安全な食料の生産、効率的な農業、環境保全はこの国の優先度の高い国家戦略目標です。オランダ政府は 1990年代末にアムステルダムから南東約80Kmワーヘニンゲンに【フードバレー】と呼ばれる食の科学とビジネスの一大拠点を整備することを推進し始めました。今では、顧客志向で良質な商品・サービスを創造する世界規模の食品開発の拠点となり、積極的な活動が展開されています。フードバレーには数多くの国際企業や研究所が集まり、ワーヘニンゲン大学はその中心として 研究と専門性の高い人材供給元として存在感を高めています。

カリフォルニア大学デイビス校(University of California, Davis・・UC Davis)
専攻分野別:2位、総合:85位

 この大学はもともと1905年カリフォルニア大学バークレイ校(UCB)付属の農学専門学校としてサクラメント市郊外に設立されました。UCB本校は研究色が極めて強いのとは対照的に、UCDavisは実践的専門教育に重点を置いた専門教育を提供しました。1946年に獣医学部が設置され、その後、工学部を始めとした学部群と各種大学院の設置を経て、1959年に総合大学としてカリフォルニア大学デイビス校が独立しました。  総合ランキングではUCグループの中で5位ですが、農学コースは分野別ランキング世界2位です。多くの専攻科目で実践的専門教育の伝統は生きていて、最近評価が高くなっている【専門教育を中心に力を入れている大学】の典型といえるでしょう。

スウェーデン農業科学大学 専攻分野別:7位、総合:専門大学院大学のためランク外

 スウェーデン・ウプサラ市にある北欧随一の農業専門大学院大学。生物学、生態学を基本的なバックグラウンドとして、農学(酪農学も含む)、森林学、森林保全管理、造園景観学、土壌学、水産資源学から食品科学まで、自然と人間の営みを接点にした様々なレベルの高いリサーチが行われています。農業国スエーデンの自然環境整備と環境管理を支える大学です。多くのコースやリサーチは国際プロジェクトの形をとり、研究者・教員ともに多国籍チームであることは言うまでもありません。

オーストラリア国立大学(ANU) 専攻科目別:11位、総合19位

 ANUは名実ともにオーストラリアのTOP大学。この国唯一の国立大で首都キャンベラにあり、政府系の機関と関係が深いこともあり、ODAや海外リサーチ活動が盛んです。また地理的にもアジア各国や太平洋島嶼諸国に関する各種研究が圧倒的強みとなっています。  世界中から優秀な教員、学生が集まっていて極めてグローバルな環境です。外国籍の学生、教授陣それぞれの比率は約35%、約56%と南半球随一のレベルとグローバル度を誇っています。  農学・森林学の分野では生態学と持続可能性研究を基礎に動物学、植物学、環境科学から造園景観学まで 世界TOPレベルの高いリサーチを多くの国際プロジェクトを中核に行われています。

ブリティッシュコロンビア大学(UBC) 専攻科目別:15位、総合:50位

 1908年にカナダブリティッシュコロンビア州バンクーバー郊外に、ケベック州にあるマギル大学の分校として創立され、1915年にUBCとして独立しました。今や学生数48,000人,カナダ太平洋岸の旗艦大学として広く認知され、海外からの研究者や学生に極めて人気の高い大学です。  世界第二位の広大な国土を有し、広大な亜寒帯(冷帯)森林資源を持つカナダの面目躍如。森林科学の独立した学部を持つ珍しい大学です。森林植物学、森林生態学、森林土壌学、森林および生態系保全資源研究、森林管理、森林オペレーションまで森林に関連する多くの専攻分野が用意されています。造園学と都市の緑化計画を学ぶコース(Bachelor of Urban Forestry)が新設され注目を浴びています。  また水産漁業センターを有していて水産資源管理から水産資源に関する生態学研究、生息数管理までレベルの高いリサーチが行われています。

クイーズランド大学 University of Queensland(UQ) 専攻分野別:17位、総合:46位

 農業国オーストラリアには、【農学・森林学分野で極めてレベル高い実践的な教育・研究を行っている大学】がいくつかあります。食の安全に最も配慮する農業国オーストラリアの得意な分野の一つです。  そのうちのひとつUniversity of Queensland(UQ)はクイーンズランド州が誇る州立大学です。この大学は生物学・生命科学関連分野が極めて強く、各種動植物の生物学、バイオテクノノロジー、(水産学・畜産学や持続可能性研究も含む)農学、獣医学、競走馬等の専門研究等 幅広い分野の研究がされています。森林学に関しては亜熱帯雨林の研究に強みを発揮しています。(カナダのUBCやスウェーデン農業科学大学は亜寒帯森林の研究に強い。)  教育・研究環境も素晴らしく、農学科や獣医学科のキャンパスはブリスベン市内のメインキャンパスから車で2時間ほどに位置するガトン(Gatton)に1,068ヘクタールの専門キャンパスがあります。農作物に関する各種研究、酪農動物飼育、飼料研究にも最適な環境にて思う存分実習ができます。近年の人気は、常にビジネススクール上位にランクインするUQのビジネスコースと上記の農学コースが共同開設したアグリビジネスのコースです。

カセサート大学 専攻分野別:47位、総合:651-700位

 1943年に国立農業大学として創立され、現在は7キャンパス14学部 学生数約69,000人を擁するタイ最大の総合大学です。中でも農学部は看板学部です。農業普及とコミュニケーション学科、農学科、畜産学科、昆虫学科、農業工学科、家政学科、園芸学科、植物病理学科、土壌学科9学科を擁するアジア最大の農学部です。特に熱帯農業に関しては強みを持っています。  この大学は英語による授業が行われるインターナショナルコースがあり、農学部、経済学部、工学部の3学部で英語のコースが開講されています。東南アジアを中心に各国から学生が集まり認知度が高まりつつあります。選考分野別で47位にランクイン。今後、外国籍の教員、学生を増やしグローバル化を積極的に進める方針を打ち出しているので今後の発展が期待されます。

農学・森林学

(続く)次回は国際政治学・国際関係学【Politics & International Studies】を取り上げます。

※「QS世界大学専攻分野別ランキング2016 解説記事:農学・森林学コース編」は、世界大学評価機関「Quacquarelli Symonds(QS)」が公表している「QS World University Rankings by Subject 2016」のデータに基づいて、記事作成、編集しています。

>QS世界大学総合ランキング2015/16はこちら。

ワールドクリエィティブエデュケーション CEO
オービットアカデミックセンター 代表 後藤敏夫