日本の大学の国際化が中学高校教育を変える
本誌でも既に述べてきましたが、世界大学ランキングが低下している東大の危機感はかなり大きいようです。このランキングの低下の背景のひとつは、学部生の国際性、国籍の多様性(Diversity)が数値的にかなり低いからです。そのため、外国人学生の入学機会を増やすために9月入学を開始することにしたのです。当面4月入学は維持するが、2014年度から本格的授業を9月に開始、5年後には完全9月入学を目指す、としています。2012年9月には英語のみで授業が行われるコース(当面留学生と長期海外滞在者対象)がひとまず始まりました。また、11月には、国立の山梨大でも、2016年度までにほぼ全ての講義を英語化することを発表しました。大学入試(一般枠)の現場でも、今までの古い形の英語の問題は姿を消し、高いレベルの記述や読解を課しており、入学する学生の国際性を高めるために急ピッチで改革が進んでいます。
これを機に日本の大学教育は大きく変わりそうです。当然、中学高校の教育と受験も大きく変わるのは必定です。では、受験の最初の出発点といわれる私立中学受験の問題点を見ていきましょう。
中学受験バブルの崩壊
長年多くの私立中学は、建学の精神を守り、それぞれ特徴ある教育を行ってきました。中高一貫のカリキュラムを採用することで、6年間の連続性のある教育と良好な進学実績を出し、人気が急速に上昇しました。「私立中→上位大学への有利な進学→有利な就職」という図式ができあがり私立中学受験がブームとなり、首都圏・近畿圏の私立中学受験数は90年代の半ばから受験者数が増え続けました。状況はエスカレートし、受験者数を実質水増しする午後入試のような受験制度も登場しました。
ところが2007年をピークに受験者数は減少を始めました。首都圏の統一試験日2月1日の一都三県の受験者数が2007年は4万3716人だったのが2012年には3万7568人と約15%も減少しています。中学受験バブルが完全に崩壊したといえます。
主な要因は、一部の加熱しすぎた受験熱に対する反省、公立中高一貫校の大学進学率の向上等が大きく影響していると思われます。それと並行して「公立中進学→高校受験」の層が増え始めています。公立の難関高校と私立高校を併願する従来のパターンに回帰する現象が出ています。これは必ずしも4科目中学受験をしなくても希望する大学に入学できることを再認識した表れといえます。
負担が極めて大きく、中学学習内容とリンクしない4科目中学受験
早稲田大、慶應義塾大等の私立難関ブランド大学に入学するには、①付属中学を受験、②付属高校を受験、③大学受験の3通りの道筋がありますが、親子とも一番負担が大きいのは何と言っても、①付属中学受験であることは明らかです。4科目中学受験は、10歳から少なくとも2年間は小学校のカリキュラムとは別の難度の高い勉強を継続しなければならず、受験準備のために他のスポーツや習いごとなど、全てを犠牲にする覚悟が親子とも必要です。さらに「中学受験は算数で決まる」といわれていますが、中学入試の算数の文章題の多くは、一旦中学に入学して数学を学習すると、その多くは方程式や不等式で解決できてしまいます。つまり、中学入試で使う算数は、受験が終わればその後は必要がないものなのです。中学入学後は題意を読み取る論理的な言語能力、表現能力としての立式能力、そして数学的演算力があれば問題はないのです。実際に4科目中学受験を経験していないオービットの卒業生の多くが、東大・早慶等の難関大学に合格できています。中学受験勉強に本格的に取り組まなかったことが原因で、その後の学力形成に大きな問題があった例は聞いたことがありません。4科目中学入試は極めてマニアックな勉強と言わざるを得ないでしょう。(続く)
ワールドクリエィティブエデュケーション CEO
オービットアカデミックセンター 代表 後藤敏夫
オービットアカデミックセンター会員向情報誌「プラネットニュース」2012年11月20日号 掲載
2013年以降の掲載記事は オービットアカデミックセンターのWEBサイト
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