後藤敏夫のグローバル教育情報

ニュースレター

年頭のご挨拶: デジタルリテラシー・ICTコンピテンシーを考える

2024.01.01

謹賀新年。2024年は更にスピードを増しながら変化が続く年となりそうです。この時代に志(こころざし)に向けて夢の実現をするために、最重要なスキルのひとつである「デジタルリテラシー(Digital literacy: デジタルに関する知識と能力)」を年頭のご挨拶に代えて取り上げます。

この時代に求められているもの

社会と時代が刻々と変化していく中で、私たちが「人生100年時代」*1 を生き抜くために求められている能力もまた変化し、その多様性も拡大しています。なかでも長足のスピードで発展、変化している現代社会においてデジタルリテラシーが必要不可欠となっています。そして、まさにこのデジタルリテラシーこそが今世紀の教育において最大のポイントの一つになります。

人類は、Society 1.0(狩猟社会)からSociety 2.0(農耕社会)、Society 3.0(工業社会)、Society 4.0(情報社会)と発展し、Society 5.0は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を統合したシステムによって経済活動や社会問題解決が行われる社会へと現在進行形で変化をしています。*2*3

Society 5.0(スーパースマートソサエティ)と、Society 4.0(情報社会) との違いは、Society 4.0では、情報の共有や分析がアナログで行われていたこと、日本では社会が高齢化と少子化による人材不足がそれに拍車をかけることになり、必要、且つ重要な知識が変化する中で、また時代が進むにつれて、指数関数的に飛躍的に増加していく情報の共有が喫緊の課題となりました。*2 つまり、Society 4.0の限界的問題となっていたその膨大な情報やデータの共有が、自動的に現実空間からサイバースペースにビックデータとして集積され、それをArtificial Intelligence(以下、AI) が分析し、そのデータが様々な形で広く社会全体に提供されるようになりました。*2 これがSociety 5.0への変異、変遷へとつながっていきます。

Society 5.0では、ロボットや人工知能、等々、様々な媒体にて自動化、自律化が促進して、今まで人に頼って可能でなかったものが可能になりました。平和利用では、ここ近年頻発している災害の予測や、人の代わりに行う救助や補修活動など、様々な場面で実用化され、人手不足の弊害の解決の糸口となっています。*4

当職が、Society 5.0という新しい時代の中で進めたい教育ビジョンは、AIを使う側になる人材を育てることです。これからの社会はAIを使う側と使われる側に2極化されます。AIを使う側として求められていくのは、専門分野の知識や問題解決をする柔軟な思考力に加えて、すべての土台(fundamental)になる高いデジタルリテラシー(Digital literacy)です。

Society 5.0についてもっと知りたい方は、以下の文部科学省と経団連のYouTubeを参照してください。
ビデオ1 動画でわかるSociety 5.0 令和3年版科学技術・イノベーション白書(文部科学省 YouTube)
ビデオ2 「20XX in Society 5.0~デジタルで創る、私たちの未来~」(ロングver.)(経団連 YouTube)

AIとは

AIとは人間が行う分析・意思決定などのタスクを遂行する人間の知能を模範したコンピュータを始めとするデバイス(機器)とネットワークを指します。*5 皆さんの周りにも既にいろいろと応用されています。例えば、スマートフォンで顔認証する時には、AIが赤外線で皆さんの顔を認識しています。*6 フェイスブックなどのソーシャルメディアで出てくるコンテンツも過去の履歴を使って、嗜好の傾向を分析し、位置情報から、最適と解析された情報をAIは選んでくれています。*6 マーケティング、金融、研究職など、様々な分野でAIの活用化は拡大しながら続伸していきます。

デジタルリテラシー、ICTコンピテンシーとは

デジタルリテラシーはコンピューター、タブレット、スマートフォン、スマートウオッチなどを使いこなすための知識と能力です。*7 いずれも、私たちの生活の中で不可欠な一部となっています。この10年間にデジタル社会を標榜し、COVID-19を契機に更にデジタル化と社会管理が進んだシンガポールばかりでなく、日本でもスマートフォンがないと生活できなくなっています。当職もシンガポールでは早くからスマートフォンを使っていましたが、日本ではガラケー(ガラパゴス携帯)を使っていましたが、数年前に政府と電話会社主導で強制的にスマートフォンへの切り替えをすることになりました。また、アナログ時代の代表格だった、紙のスタンプカードもそのころからスマートフォンアプリに切り替わっています。最近ではSuicaも新しいプラスティックカードは発行されず、スマートフォンアプリのみの新規加入となっているようです。これらのアプリを使うこともまたデジタルリテラシーのひとつです。

ICT(Information and Communication Technology)のコンピテンシー(Competency:能力・スキル)は、数あるデジタルリテラシーの種類のひとつに位置づけられます。ICTコンピテンシー、パソコンやスマートフォンなどのさまざまなディバイスを活用して、情報収集や情報処理、コミュニケーションを行う能力という定義が日本では一般的となっています。*8

PISA 2022 ICT フレームワーク(Framework) 5つの要素

OECD(The Organisation for Economic Co-operation and Development, 経済協力開発機構)主導の学力調査であるPISA 2022(Programme for International Student Assessment 2022) Assessment and Analytical Frameworkのの中に ICT Framework があり、その中でICTコンピテンシーが5分野に整理されています。*9

Competency area 1: Accessing, evaluating and managing information and data

まず、必要な情報やデータ、デジタル情報を見つけ出し、分析し、評価して、それを管理する能力が求められています。 フェイク(うそ)情報等が散乱しているインターネットから、関連性のある、不可欠で、有効な情報やデータとデジタルコンテンツをICTを使って取り出す能力です。インターネット上の情報を正しく評価する為には、簡単に情報を鵜吞みにしない総合的な思考力(Critical thinking)が必要となってきます。ある特別な要件のために、情報やニュースソースの信憑(ぴょう)性を確認し、膨大な情報の中から必要な情報だけを整理してまとめ、そしてファイリングする能力までを含みます。

Competency area 2: Sharing information and communicating

2つ目は、情報の共有とコミュニケーションの能力です。 これからは情報交換や知識の共有、特定の話す対象と媒体に合わせたコミュニケーション方法をカスタマイズする能力を含みます。

Competency area 3: Transforming and creating information and digital content

3つ目は、情報とデジタルコンテンツの転換と作成する能力です。 ICTとICTからのデータやデジタルコンテンツ、情報を新しい情報や知識に発展させることです。既存の情報を活用、適用、デザインして、それを使って、新たなコンテンツを生み出してAuthoring(オーサリング:ビデオ、音、テキストデータなどを編集し、アプリやWEBなどのマルチメディアやコンテンツを作ることを指す。)する能力を評価します。

Competency area 4: Problem-solving in a digital context and computational thinking

4つ目は、特定のデジタル内容や文脈、背景の中でコンピューテーショナルシンキング(Computational thinking)を経て、問題を解決する能力です。 コンピューテーショナルシンキングとは情報分解や、パターン認識、抽象化、アルゴリズム思考能力を指し、もともとプログラムアプリやコードを開発するために要する認知スキルとプロセスです。 問題解決を目的に私たちはコンピューテーショナルシンキングのスキルを使って、問題の分析・理解、表現・象徴し、仮説を立て、目標に向けて戦略を計画して実行し、そして最終的には経過を観察し、修正していく能力が求められています。

Competency area 5: Appropriate use of ICT (online security, safety and risk awareness and skills)

最後は、ICTを適切に運用する能力です。 ここで重要なのは、様々な状況で社会的に、法に準拠して、倫理的に(Ethical)にICT(オンラインセキュリティー、安全性とリスクの気づきとそのためのスキルを備えを包括したICT)を適切に利用することです。 まさに、こうした社会的に認知される、且つ倫理的なデジタルリテラシーを習得することがICT教育の中心に据えられています。

インドに見るデジタル社会の進展

2020年から2022年はCOVID-19によって、世界中の人とモノの流れ、多くの活動が、一時的に強制的に停止しました。その解決策として、非接触型の代表である、通信技術とAIを使った開発や作業に、様々な産業や社会、個人が急激に取り込まれ、デジタル化・デジタルリテラシーの浸透が進んでいきました。*10 しかしながら、その度合いは国によってさまざまです。*10 ここではインドの発展の中に日本に求められていることを考えてみます。

IT大国のインドは輸入に頼っていたコンピュータのソフトウェアの関税が、1984年に引き下げられ、それを弾みとして国内のコンピュータ需要が一変して拡大しました。それ以来、様々な政策・取り組みが打ち出されて、国内産業としても急速な発展を遂げました。*11 1980年台は、多くのIT企業が創設され、中でもインドのシリコンバレーと呼ばれたベンガルール(バンガロール:Bengaluru)が注目を集めながら発展していきます。1999年に起こったY2K問題=2000年問題は記憶に新しいと思いますが、その対策対応時にその開発力を認められアメリカからアウトソーシングを受注したことにより、バンガロールの名前は一躍有名になりました。 現在、インドは世界でも有数のソフトウェアやIT関連製品の輸出国となりました。*11 その輸出は年間約US$700億ともいわれています。*11 この数十年のインドの経済成長はこのInformation Technology (IT)の発展の下支えがあったからといっても過言ではないでしょう。インドの経済成長はいまだ衰えず、2023年11月時点でも毎年平均6.3%の経済成長が見込まれ、2023年にはアジア太平洋地域で2番目の経済大国となると予想されています。*12

当職が興味深く感じているのは、インドがCOVID-19の間、特に田舎の農村地域の若者の基本的なICT スキルが上がった調査結果が2023年のThe Economic Timesの記事で発表されていることです。*13 具体的には、2017-2018年で15-29歳の約3分の1が基本的なコンピュータの操作スキルがあったのに対し、2021-2022年には40%以上に増加しています。*13 更に、2017-2018年に田舎より都会の方が2.4倍コンピューターの基本的な知識がある割合が高かったのが、2021-2022年ではその差が1.8倍に縮まりました。*13 このICTコンピテンシーのある人口の上がった大きな要因となっているのが、スマートフォンの普及や会計年度2016-2017年から始動した政府主導の農村地域のデジタル教育を目的としたプロジェクト、Pradhan Mantri Gramin Digital Saksharta Abhiyanとされています。*14 これは、農村地域に在住の14歳から60歳、デジタルリテラシーがある者がいない各家庭1名を対象に、無料に研修が提供されるというものです。*15 

デジタル分野は近年の分野なので、カースト制度による縛りがなく誰もがデジタル環境やIT産業に参加、参画できることや、高水準な数学教育の浸透が、このスピーディな発展の高いポテンシャルとなったことも広く知られていることです。また、江戸時代に日本が欧米の列強より識字率が2倍以上高かったことが日本の明治以降の長足の近代化の礎(いしずえ)となったことを連想させられます。この江戸時代の高い識字率は「高い言語リテラシー」という言葉に置き換えられます。そして、インドがこのデジタルリテラシーの教育を強みに、今後どのような速さで更に発展していくのかに強い関心をもっています。

一方で、日本は2021年にデジタル庁が発足し、2023年6月に重点計画が決定され、社会な様々な分野でのデジタル化への計画が記されていますが、*16 かなり遅めのスタートで課題は山積していることは日本にいらっしゃる方がたのほうがよく知っていらっしゃるでしょう。しかしながら、日本は産業やデジタル市場へのテコ入れだけでなく、上述のインドのように、政府主導で、教育現場で、社会人教育も含めて、この実践的にデジタルリテラシー、ICTコンピテンシーを迅速に体系的に極めていくことが切望されます。すなわち、「AIを使う側」になるためには上述の PISA ICT フレームワークにあるような実践的デジタル教育の推進が急務です。

Y2K 2000年問題:1999年12月31日深夜から2000年1月1日にかけて、コンピュータやソフトウェアの内部処理システムにバグが発生する問題。

教育でのICTスキル

PISAフレームワークによると、学生のICTへの関わりと教科学習の成果の研究と文献は増大している傍ら、未だ、関係性について意見の一致には至っていません。しかしながら、子供たちがICTのスキルを身に着けることは必然であると断言しています。15歳の生徒や教員にICTのアクセスや質、そして教室内と外での利用についてアンケート調査を行っていて、それによるとICTを教室に取り入れることによって、指導時間やカリキュラム、指導と学習のプロセスと経験(結果)に変化があることがわかっています。*9 

オービットではこの情報やデジタルリテラシーをどう取り入れるかをこの数年研究しています。情報の取り扱いやコンピューテーショナルシンキング(Computational Thinking)など、既存の科目、例えば数学のカリキュラムに取り込むなどです。これらを成果に結びつけていくためには、日頃からお話している「言語技術」が必須となります。

おわりに

これから皆さんがグローバルに活躍するためには、教育や仕事の場面だけでなく、日常的に様々なデジタルリテラシーを使いこなすことが求められます。そのため、私たちオービットも教育理念の中で掲げている「グローバル社会に対応できる人材を育成」を引き続き実現していくべく、教科の垣根を超えた「論理的に考える力」の錬磨に加えて、グローバルにコミュニケーションするための基礎となり、また、情報や知識の活用と分析をする力や、新しいテクノロジーに対応できる柔軟な思考力と積極性を鍛錬する指導に更に注力する所存です。

2024年が皆さんにとって更なる発展と挑戦の年となりますように。今年もよろしくお願いいたします。

2024年元旦

後藤 敏夫
オービットアカデミックセンター 代表
ワールドクリエイティブエデュケーション CEO

この記事はオービットアカデミックセンターのホームページ「探求のページ」にも同時掲載されています。

 

脚注
*1 厚生労働省(n.d.) 「人生100年時代」に向けて, 厚生労働省、accessed on 26 Dec 2023.
*2 内閣省(n.d.) Society 5.0, 内閣省, accessed on 1 Dec 2023.
*3 Japan Science and Technology Agency (JST) (n.d.) '"Super Smart Society (Society 5.0)" mission area', Department of R&D for future creation, JST, accessed on 10 Dec 2023.
*4 Malczyk K (17 Jan 2023) '7 ways Google is using AI to help solve society's challenges', Google, accessed on 10 Dec 2023.
*5 International Business Machines Corporation (IBM) (n.d.) '人工知能(AI)とは’, accessed on 1 Dec 2023.
*6 Marr B (16 Dec 2019) 'The 10 Best Examples Of How AI Is Already Used In Our Everyday Life', Forbes, accessed on 10 Dec 2023.
*7 Mizunoya S et al. ( 10 Sept 2019) ICT skills divide: Are all of today's youth prepared for the digital economy?, UNICEF, accessed on 10 Dec 2023.
*8 アベ (30 Nov 2022) 'ICT活用とは何か?6つの中小企業事例・メリット・導入方法を解説', NTT東日本, accessed on 1 Dec 2023.
*9 Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD) (August 31 2023) 'PISA 2022 Assessment and Analytical Framework', OECD, Paris, accessed on 1 Dec 2023.
*10 Forsyth J (7 March 2022) '8 technology trends for innovative leaders in a post-pandemic world', World Economic Forum, accessed on 2 Dec 2023.
*11 Newshour (n.d.) 'Top IT companies in India: History, Challenges and their future', Newshour, accessed on 12 Dec 2023.
*12 Allianz (9 Nov 2023) 'India A rising star', Allianz, accessed on 27 Dec 2023.
*13 The Economic Times (23 March 2023) 'How India is getting better at information and communication tech skills', accessed on 18 Dec 2023.
*14 Screwvala Z ( 4 Oct 2022) 'Going digital: A bubbling revolution in rural India', Forbes India, accessed on 18 Dec 2023.
*15 Ministry of Electronics and Information Technology (n.d.) 'Pradhan Mantri Gramin Digital Saksharta Abhiyan', Government of India, accessed on 18 Dec 2023.
*16 デジタル庁 (n.d.) 'デジタル社会の実現に向けた重点計画', accessed on 5 Dec 2023.