後藤敏夫のグローバル教育情報

ニュースレター

英語プログラム導入が進む非英語圏の大学 - ④オランダ(1)

2021.06.15

「低い土地」を意味するネーデルランド

西ヨーロッパに位置するオランダ王国は、13世紀以降本格的に開始された干拓と治水事業で新しい国土(ポルダー)を継続的に創生しました。現在の国土の約30%は、海抜0メートル以下。こうして人工的に作られた土地は、20世紀までに約8,100平方キロメートルに及んでいます(国土面積:4万1,528平方キロメートル…九州の面積とほぼ同じくらい)。最も高い土地でも海抜322.5mという平坦な地形になっています。

オランダの人口・言語状況とベルギーの独立革命

人口:1,728万人(2019年、オランダ中央統計局)
公用語:オランダ語、フリジア語(北海に面するフリーラント州で使用)の2言語。
宗教事情とベルギー独立革命:1830年ベルギーに独立革命が起こります。主因はキリスト教の宗教対立。オランダはプロテスタントが多数派、ベルギーはカトリックが多数派です。革命の結果、ベルギーはオランダから独立しました。こうした経緯から、現在もベルギー北部地域(フランドル地方)では、オランダ語をフラマン語と呼称して使用しています。

オランダ人の母語オランダ語と、必須となった実用英語スキル獲得

オランダ語使用人口:約2,360万人。(オランダ+ベルギー北部フランドル地方)この使用者人口では、グローバルな言語になりません。
オランダ政府は、オランダ語の習得に関して、
・母語としての習得
・オランダ文化とアイデンティティを確認する言語習得
を目的にしています。
一方、国際ビジネスやアカデミックの分野では、国際汎用性が高い英語の運用スキル獲得が、従来以上に死活問題になっています。
オランダの小学校英語教育本格導入は、1970年度初頭でした。第二言語としての英語学習開始年齢も、ヨーロッパでは比較的遅く小学3年から。学習手法は、徹底的な実践的コミュニケーション重視。英文法の学習はほとんどなし。中等教育からは、英語による大学専門教育に対応できるカリキュラムが導入されています。インターネットを利用したICTの活用も盛んです。マスメディアやICT教材英語化も急激に進展しました。

驚異的なオランダ人のバイリンガル率(オランダ語・英語)

オランダ人のオランダ語・英語のバイリンガル率は90%以上と言われています(地域によってはオランダ語・ドイツ語バイリンガル率もかなり高いと言われています)。成功の理由は、下記の3つにあると言われています。
・オランダ語が英語・ドイツ語と酷似した言語構造・語彙を持っていること
・上手・下手にかかわらす英語の使い手が多く、使うチャンスが多いこと
・上記の実践的な教育手法
近年オランダ政府は、英語運用力をさらに上げるため、小学校段階からオランダ語・英語のバイリンガルスクール(公立)の実験運用を始めています。

こうした英語教育の改革が、ICTの積極的活用と相まって大学のグローバル化を急速に推進させる大きな力になることは言うまでもありません。

大学の英語学位プログラムの増加

高等教育の英語化:英語・オランダ語のバイリンガル化が進んでいます。大学の修士レベル以上のコースは、すでに英語が主要言語になっています。
2015年以降は学士レベルのコースも英語化が進み、大学のグローバル化が進展しています。英語による授業の増加が契機になり、海外からの留学生、オランダ人学生双方の人気が向上しています。

グローバル化が進展するオランダの大学
オランダの大学は特色のある大学が多く、QS世界大学ランキング2021で250位以上に12大学がランクインしています。いずれも、大学のグローバル化の指標となる3つの比率が向上。国際的な研究・学習環境が整備され、ヨーロッパ全土・中東・アフリカから優秀な教授陣と研究者を集め、EU各国のグローバル企業・研究所との連携を深めています。

<大学のグローバル化の3つの指標>
●国際学生の比率の向上 ●外国人教員の比率の向上 ●英語授業の比率向上

<オランダの大学 世界ランキングと国際学生比率>
●QS世界大学ランキング250位以内に12大学がランクインしています
(QS世界大学ランキング2021 https://www.topuniversities.com/university-rankings/world-university-rankings/2021)
●国際学生比率…「学生総数の20%以上が国際学生」がグローバルなキャンパスの目安と言われています。
※()内順位はQS世界大学ランキング2021
・デルフト工科大学         (57位)   31%
・アムステルダム大学        (61位)   24%
・ワーへニンゲン大学        (115位)  27%
・アイントホーフェン工科大学   (120位)  23%
・ユトリヒト大学               (121位)  10%
・ライデン大学               (128位)  18%
・フローニンゲン大学         (128位)  23%
・エラスムス大学ロッテルダム   (197位)  22%
・トウェンテ大学              (197位)  35%
・ラドバウド大学             (214位)  16%
・マーストリヒト大学           (234位)  54%
・アムステルダム自由大学     (236位)  13%

(続く)

(本記事は、オービットアカデミックセンター会報誌 プラネットニュース 2021年6月号(2021年5月20日発行)に掲載された内容です。)