COVID-19 のパンデミック化で ICT 教育が進展する!?
2020.06.14
サーキットブレーカーにはICT教育で対応する
4月7日にシンガポール政府は新型コロナウイルス(COVID-19)の急激な感染拡大に対応するため、サーキットブレーカー(ソフトロックダウン)を発動しました(6月2日以降、段階的に解除)。日本人学校、ローカル校、インターナショナルスクール、そして塾に至るまで、自宅以外で行う教育活動はすべてシャットダウン。生徒が集まる教室を閉鎖し、自宅学習に切り替えることになりました。多くは自習でなく、教育機関によるDistance Learning(遠隔学習)……オンライン学習に一気に切り替えられました。シンガポール政府が一貫して教育のICT化を推奨・支援してきたこともあって、概ね大きな問題もなく移行したようです。ICT教育とは?
「ICT」は、「Information and Communication Technology (情報通信技術)」の略であり、ICT教育とは、パソコンやタブレット端末、インターネットなどの情報通信技術を活用して行う総合的な教育手法のことです。 効率よく活用するには1人につき1台のタブレット端末か小型PCを持っていることが基本条件になります。今回話題のDistance Learning(遠隔学習)はICT教育を構成する重要な要素の一つです。ICT教育導入のメリットとは?
1.Distance Learning Distance Learning(遠隔学習)が容易にできること COVID-19 がパンデミック化し、政府によってサーキットブレーカーやロックダウンが実行されても、家庭にいながら毎日の学習ができることが強みです。最近のICT機器やインターネット環境はスペックが格段に向上し、インターネット上で行われる教員・生徒間の対話、演算処理、画像処理等が同時に問題なく行えるようになりました。2.授業のスタイルが変わり、生徒の参加意識が向上する ①PCやタブレット端末を使用すれば集団授業(50人程度まで)でも、教員による個々の生徒の学習把握と対応が可能になります。 ②ビデオ会議機能やメッセージ機能を利用することで、教員⇔生徒の双方向授業や多元的な授業も容易になり、生徒の参加意識向上も期待できます。 ③インターネットから入手した画像、動画を活用しやすくなります。 ④PC があれば、協働(※)編集などでプロジェクトに参加しやすくなります。
3.授業準備の効率化が推進される。 ①教員はタブレット端末や PC、インターネットを使うことで、板書の時間やプリントを用意する時間などを削減し、本質的な授業準備に時間を使うことができます。 ②すべての教務関連の資料、生徒の成績・活動履歴等が電子データとなるので情報共有が効率的になります。
4.サイバーコミュニティをつくることができる 物理的には共有していなくても、サイバー空間で学習の場を共有することで、協働する力が自然と養成されます。多元的な授業、プレゼンテーション、プロジェクトワーク等の場でいかに協働(※)するかを学ぶことになります。このコミュニティは、将来国際的なネットワーク作りに極めて有用であることは言うまでもありません。
ICT教育の注意点、留意点
1.想像力の低下を招きやすい ICTは活用の方法によっては、生徒の想像力が低下する可能性があります。生徒はインターネットを使って何でもすぐに検索し、「解答に到達すればそれでよしとする短絡的思考」が強まる場合があります。可能な限り「思考すること」「試行すること」「回り道すること」を努め、公式暗記主義を排しましょう。2.ICT教育を活用して学ぶべき3つのリテラシー ICT教育で学べる3つのリテラシーには、明確なゴールと育成方針が必要になります。 ① 読解リテラシー(国語言語技術…論理的な母語の運用能力) ② ICTリテラシー(ICTを自由に操作可能な知識と運用力、プログラミング等) ③ 数学リテラシー(問題の解法知識でなく、数学的思考・論理性と運用力)
急がれる日本におけるICT教育環境整備
シンガポールは早くからICT教育環境整備を開始。世界各国の学校現場においてもICTの活用は必須のものとなりつつあります。しかし、OECDの国際教員指導環境調査(TALIS)2018において、日本の中学校教員のICT活用の割合は17.9%。参加国(48カ国・地域)中で2番目に低いという危機的状況です。(参加国平均は51.3%) 日本でもCOVID-19の感染拡大のため、緊急事態宣言が発動されました(2020年4月7日)。シンガポールと同様の状況になり、多くの学校が一気にDistance Learning(遠隔学習)を導入しつつあります。 COVID-19の蔓延がICT導入のきっかけになりましたが、本格的なICT教育を早期導入し、3つのリテラシーの高い生徒を多数育成してほしいものです。※協働:学習について使う場合は「共同」ではなく「協働」と表記する場合が多い。ICTなどを活用してグループ単位で課題を解決する学習形態のこと。
(続く)
(本記事は、オービットアカデミックセンター会報誌 プラネットニュース 2020年6月号(2020年5月20日発行)に掲載された内容です。)