後藤敏夫のグローバル教育情報

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大学入学センター試験の問題を時代遅れにした発見②

2018.04.15

若い恒星(種族Ⅰ)の方が重い元素を含んでいる

こうして宇宙空間で重い元素が増加。宇宙誕生初期に星間ガスをかき集めて誕生した第1世代の恒星(種族Ⅱ)と、最近誕生した第2世代の恒星(種族Ⅰ)をくらべると、若い恒星の方が重い元素を多く含んでいることが分かります(若い恒星が種族Ⅰという紛らわしい命名なので要注意)。

これで「(3)種族IIの星は、種族Iの星にくらべて重い元素の割合が多い」の正誤は明らかです。(3)も×ということになります。(※問題は、先月号の「後藤敏夫のグローバル教育ニュース」をご確認ください。)

超新星爆発で金、銀、プラチナ、ウランが合成される?!

こうして誤りを除外、恒星の種族名を正しく選択すれば(2)の「超新星爆発によって、鉄より重い元素がつくられた」という選択肢にたどり着きます。消去法により、これが地学第6問Aの正解ということになります。

恒星の通常の核融合反応では、周期表に並ぶ元素のうち、原子番号26番-鉄までしか合成されないと考えられています。鉄より重い元素、金、銀、プラチナ、ウラン等の元素は、恒星内部の核融合では合成できません。そういう重い元素の原子核は、鉄の原子核よりも高いエネルギーを持つので、合成するためには外からエネルギーを加えて無理やり原子核同士を結合させる必要があるのです。

超新星爆発は1個の恒星が膨大なエネルギーを放出、恒星を構成していた物質はばらばらの原子に分解され、原子核も分解され、宇宙空間に撒き散らされます。この時、原子核は壊れるだけでなく、ある割合で結合し合います。超新星爆発なら【重い元素】も無理やり合成されるのです。これで金、銀、プラチナ、ウランもOK。周期表の穴が埋まり、すべての元素が生成可能。というのが、2017年8月17日12時41分04秒(協定世界時)までの、教科書にも載っている定説でした。

中性子星の衝突・合体が重い元素大量をより大量に生成する

定説【超新星爆発による元素合成説】に対して、【2つの中性子星衝突・合体による元素合成】を主張する物理学者もいました。

中性子星は、超新星爆発によって誕生。質量が私達の太陽の1.4倍程度もあるのに、半径がわずか10km程しかない、極めて高密度の異常な天体。宇宙には、このような天体が2個、互いを周回しているものがあります。2つの中性子星は、数億年の間に徐々に接近、ついには衝突・合体。その後は高い確率で1個のブラックホールになると思われます。彼らは、2つの中性子性衝突・合体の際には、あたりに飛び散った中性子星物質が大量の重い元素を作り、宇宙空間を重い元素で満たすだろうという計算をしました。ダブル中性子星の衝突・合体は、超新星爆発よりもずっと稀な出来事ですが、1回の衝突・合体で作られる重い元素が多いため、元素によっては、超新星爆発よりも中性子性衝突・合体で作られた量が多いだろうと推測されます。

2017年8月17日12時41分04秒

アメリカの重力波アンテナ「LIGO(ライゴ)」は、初めて【2つの中性子星の衝突・合体】と思われる天体から飛来する重力波を検出(2017年8月17日12時41分04秒)。

あらゆる波長の重力波アンテナを備えた世界の天文台が一斉にこの重力波到来方向を観測し始めました。その後発表されたいずれの観測データも(予想どおり)【中性子星衝突・合体】によって重元素が大量生産されたことを示していました。宇宙に存在する鉄より重い元素は、「超新星爆発によって作られたものよりも、中性子星の衝突・合体によって合成されたものの方が多い」という証拠となりました。

こうして【元素の起源についての知識】を問うこの問題は時代遅れになりました。ちなみに、この問題の選択肢(2)は下記のように修正すべきと思われます。

修正前:超新星爆発によって、鉄より重い元素がつくられた。 修正後:中性子星衝突・合体や超新星爆発によって、鉄より重い元素がつくられた。

この例のように、科学技術の進歩は急速で、学んだ知識が一瞬で時代遅れになることがこれからもたびたび起こりそうです。

(続く)

(本記事は、オービットアカデミックセンター会報誌 プラネットニュース 2018年4月号(2018年3月20日発行)に掲載された内容です。)