ドイツの戦略的役割
近年、ドイツは、文字通りEUの中軸国家として、アカデミズム・研究開発(R&D)を牽引する役割が大きくなっています。ドイツ系を中心とする国際企業からの研究資金供給が増加。ドイツ周辺国(中欧、ロシア、中近東に至るまで)から学生・研究者のドイツの大学・研究機関への流入も増加しています。多くの国が排他的移民政策へ傾斜して行く中、【緩やかな移民政策】と【EU圏以外出身者にも安価な学費体系】という戦略を維持、大学の国際化度アップにも貢献しています。USのトランプ政権の移民政策・国際教育政策次第では、一部がオーストラリア・カナダ・アイルランド等の英語圏、一部がドイツに流れるかもしれません。
政府主導の新ハイテク戦略
ドイツ政府は、2014年新ハイテク戦略(Innovations for Germany)※1を策定し、年間140億ユーロ以上の資金を重点分野に投入しています。スマートファクトリー(考える工場)やIOTを中心にしてインダストリー4.0(第四次産業革命)と言われる新しい社会構築を目指す1大国家プロジェクトを※2産学官の3者による強力な連携のもと開始しました。これらのプロジェクトに現在、連邦政府、ドイツ系企業から、優先的に潤沢な資金・人材・施設が提供されています。
※1 新ハイテク戦略:ドイツ連邦政府が定めた重点分野は下記6点
・デジタル経済と社会
(インダストリー4.0、スマートサービス、デジタルサイエンス、ICT教育等)
・持続可能な経済・エネルギー
(エネルギー研究、グリーンエコノミー、持続可能な農業生産、持続可能な消費等)
・健康的な生活
(オーダー医療、予防医療、医療技術のイノベーション、介護技術のイノベーション等)
・スマートモビリティ分野(自動車技術、航空分野、スマート・ハイパー交通インフラ等)
・革新的な労働環境
(デジタル世界における労働、能力開発教育、将来市場向け革新的サービス)
・国民世界とセキュリティ
(セキュリティ研究、サイバーセキュリティ、ITセキュリティ、個人情報の保護)
※2:産学官の3者による強力な連携活動
下記のそれぞれのセクターが連携活動を開始しています。
産 ・ジーメンス、ボッシュ、ザップ、フォルクスワーゲン等主要メーカー、IT企業
学 ・ミュンヘン工科大、アーヘン工科大、ベルリン工科大 等主要工科大学
・フラウンホーファー研究所(全ドイツ67研究所)
官 ・ドイツ連邦政府 研究教育省、経済エネルギー省
+インダストリー4.0プラットフォーム(以上参加各機関のまとめ)
ドイツの大学の勢力図に変化
上述の施策の下、ドイツの大学の勢力図には変化が起きています。
従来 心理学・歴史学・哲学等の人文系分野、生命科学・数理科学・物理学等の自然科学分野に強みを発揮、いずれも500年以上の伝統を持ち、国際的にプレステージが極めて高いルードヴィッヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(LMU Munch)(30位?29位)とルプレヒト・カール大学ハイデルベルグ(43位?37位)、の2大学がやや退潮、インダストリー4.0(第四次産業革命)国家プロジェクトの中心的役割を担っているミュンヘン工科大学(46位?53位)、アーヘン工科大学(78位?110位)、ベルリン工科大学(82位?順位なし)等の主要工科大学が大きくランクアップしています。
表1: THE 世界ランキング2016-17 QS世界ランキング2016-2017
(続く)