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QS世界大学ランキング 2016-2017 ② 世界情勢が大学ランキングに大きく影響する

グローバル教育解説

2016.10.11

 2016年は、世界中で起こるテロリズムの脅威、深刻化する難民問題、BREXIT(イギリスのEU離脱)等、多くのショッキングな事態が起きています。この不安定な状況はしばらく続きそうな気配です。
こうした大変化のさなかにあっても、世界の教育の動向はグローバル化にますます進むことには疑いの余地がありません。しかしながら、激変する世界情勢の下では、各国の国力と政策が世界の大学ランキングに大きく影響し、変動をもたらすことでしょう。グローバル型大学の影響力が顕在化するからです。今回のQSランキングの変動にはすでに顕著な特徴がでてきました。

堅調なアメリカ

 アメリカのリサーチの強い大学は今回安定的なポジションを維持、活発な活動をうかがわせます。特にAI(人工知能)とIOTとを基軸とする第四次産業革命、生命科学やナノテクノロジー等の分野に企業からの研究・開発投資が盛んになってきていることが主因となっています。

 EUを主な震源とする難民問題、イギリスのBREXIT等の経済にとってはマイナスの影響がヨーロッパ諸国に比べて、アメリカでは軽いことが比較的安定要因となり、教員・研究者と留学生をアメリカに振り向ける結果となっていると考えます。歴史を振り返っても、第一次大戦やナチスのユダヤ人の迫害など、ヨーロッパの逆境はアメリカのポジションを向上させる機会となってきた事実があります。(今回はアメリカ国内の政権交代での不安が大きいので、一概にアメリカに有利と諸手を上げて言えませんが。)
 実際、2016年9月のQSのランキングを見ると、2004年に最初に世界ランキングを発表して以来、初めて総合ランキングの【1位から3位までアメリカの大学が独占するという事態】が起こりました。(1位 MIT、2位スタンフォード大学、3位ハーバード大学)上述したようにAIやIOT関連、生命科学やナノテクノロジーの分野で強いリーチ力を持つアメリカの大学が順位を上げました。

苦戦するイギリス

 対照的に、今回のQSのランキングではイギリスが苦戦しています。
ケンブリッジ大学(3位⇒4位)、インペリアルカレッジ・ロンドン(8位⇒9位)、キングスカレッジ・ロンドン(19位⇒21位)、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(35位⇒や37位)、ダラム大学(61位⇒74位)、ノッティンガム大学(70位⇒75位)、セントアンドリューズ大学(68位⇒77位)等100位までランクインしているイギリスの18大学の内14大学がランク落ちしています。
 このランキングの調査検討の時期は、6月23日のEU離脱を決定したイギリスの国民投票前なので、BREXITと今回のランキングの結果とは直接関係があるとはいえません。しかし、EU脱退により、イギリスの不透明な経済状況、移民と外国人の就労を厳しく規制する流れが今後一層強まり、イギリスの大学のランキングの降下にしばらく影響が続くと考えられます。
 事実、EU在住のインド系移民の学生がイギリスからアメリカに留学先を移す動きが出始めています。イギリスの有力大学は、従来、EU圏の優秀な教員・研究者と学生を確保し、高い教育・研究レベルを保持してきましたので、この動きは「高い国際度」という点で不利になることは間違いないでしょう。イギリスのEU脱退の手続き、日程が本決まりになると、EUからの研究補助金が減り、グローバル企業からの研究投資資金も逃げていく可能性があります。こうした先行きの不透明さを今後ますます反映していくでしょう。一方で、皮肉なことに、ポンド安がアジアの学生のイギリス留学を促進していますのでその影響も少なからず出てきます。この点でも今後の動向に目が離せません。

オランダの動き

 EUの高等教育の中核オランダは、先回のランキングでは200位までに13の大学がランクインしていますが、STEM分野※1で評価が高いデルフト工科大学<TU Delft>(64位⇒62位)を除くすべての大学が順位を落としています。昨年からのEUの混乱の中で外国企業が研究投資を、留学生が減少しているという報告がありあます。シェンゲン協定※2により多くの教員・研究者・留学生を自由に確保してきたヨーロッパのG型大学は受難の時代を迎えたようです。
※1STEM分野:Science Technology Engineering Mathematics 数理科学を基礎にした自然科学、工学分野のこと。
※2シェンゲン協定:ヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を越えることを許可する協定。

注目が集まるスイス

 ランキング競争で一応に苦戦しているヨーロッパ諸国の中で例外はスイスです。スイスはヨーロッパの教育・研究のもう一つの中心と長く知られてきました。
スイスは4つの公用語(ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語)が認められている多言語国家です。スイスの大学はG型大学の典型といえます。学士課程はドイツ語かフランス語、修士以上は殆ど英語が教授言語。研究員・教職員、国際学生比率もヨーロッパ随一といわれる高い国際化度を誇ります。
 スイスはEUには非加盟ですが、スイスの大学・研究機関・企業はすべてのEU の研究・技術開発枠組み計画(FRP)に全面的に参加可能です。スイスが参加している中心分野には情報伝達技術、健康・生命科学、エネルギー、ナノテクノロジー、環境、そして基礎研究で、きわめて高い成果を上げています。これらのプロジェクトの中心になっているのがスイス連邦工科大学チューリッヒ校(9位⇒8位)スイス連邦工科大学ローザンヌ校(14位 順位変わらず)です。

シンガポールの継続的かつ安定的発展

 スイスの高等教育機関をモデルにして作られたのがシンガポールの大学です。
シンガポール国立大学(NUS)(12位 順位不動)とナンヤン工科大学(NTU)(13位 順位不動)を持つシンガポールは、学士課程からすべて英語で学習・研究ができるという環境があり、政府が多額の資金を投入、優秀な外国人教員・研究者を継続的に雇用しています。前回の稿で言及した国際化度も2大学ともアジア随一。文字通りアジアの研究・教育ハブという地歩を固めています。

中国の躍進

 中国のような一党独裁国家は、民主主義体制をとっている国家に比べ集中的な資金投入が容易です。中国は重点大学政策を採用、1998年に<985工程(プロジェクト)>にて39大学を国家重点大学に指定、予算を重点配分し、世界レベルの研究と国際共同研究を軸にした国家プロジェクトに邁進しています。
特にSTEM分野に重点投資し、その成果が出てきています。英語圏のトップ大学で先端研究に従事する優秀な中国籍の研究者を、重点大学に呼び戻して、研究レベルを大幅に向上させています。
政府研究開発費は2013年には日本の約2倍、アメリカの4分の3近い3,365億ドルに達し、今後もますます増える勢いです。人口減少とそれに伴う税収伸び悩みが深刻な日本にとっては、かなり手ごわいライバルと言えましょう。
 2016年のランキングでは13の大学がランキングを上げました。特に100位以内に4大学がランクイン。清華大学(25位⇒24位)、北京大学(41⇒39位)、復旦大学(51位⇒44位)、上海交通大学(70位⇒61位)です。この上昇基調はしばらく続きそうです。

独自路線を維持する香港(特別行政区)

 中国政府は、香港の大学には中国本土の重点大学(985工程)とは別の路線を独自に進めさせています。中国本土は中国籍の学生中心、学士課程は中国語、修士以上は授業の一部を英語にしています。一方、香港の大学は学士段階から英語中心の講座構成となっています。以前から外国籍の教職員・研究者が多く、国際学生を積極的に入学させていますので文字通りのG型大学として健全な発展をしています。今回も香港大学(39位⇒27位)香港科技大学(28位⇒36位)香港中文大学(51位⇒44位)香港城市大学(57位⇒55位)の4大学が100位以内にランクインしています。ランクの上がっている中国本土の清華大学、北京大学に合格しても、香港大学をあえて選ぶ学生が多いことにも変化はありません。

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